絵本『ドン・ウッサ』シリーズ キューライスさんインタビュー
EHONS TOKYOで人気なのが、絵本「ドン・ウッサ」シリーズ(白泉社)のグッズ。マンガ家としても活躍するキューライスさんが描くこの絵本シリーズは、貫禄たっぷりで人のいいウサギの大親分と、かわいい子分たちが繰り広げるおかしなやりとりがたまらないのです。
キューライスさんの創作力の原点は? どんな絵本が好き? などなど、EHONSのスタッフが気になることをたくさん聞いてみました!
絵本「ドン・ウッサ」シリーズから生まれました!
EHONS) ──EHONSでは「ドン・ウッサ」シリーズのクスッと笑えるかわいい絵から、一筆箋やクリアファイル、和紙フレークシール、もちもちまんまるマスコットキーチェーンなどのオリジナルグッズを作らせていただいて。どれもEHONS TOKYOでとても人気があるんです。
キューライスさん) ありがとうございます。「おやぶん」もですが、「こぶん」(もちもちまんまるマスコットキーチェーン)がかわいいですね……。
EHONS) ──店頭でお客様が1個、1個、顔を見ながら、選んで買っていかれる様子を見て、キャラクターが愛されているのを実感します。「ドン・ウッサ」が生まれたのは、何かきっかけがあったのですか。
キューライスさん) 「絵本を作りましょう」という話になったときに僕がいくつかキャラクターと内容を考えて、編集者に提案したひとつがこれだったんですね。やさしい感じにしたかったので、マンガで言えば『ネコノヒー』(KADOKAWA)と同じ、ペンと透明水彩絵具を使った手法で描いています。
EHONS) ──「カモメさんのように自由に大空を飛んでみたい」「やせて、すらっとしたウサギになりたい」というおやぶんの無謀な願いを叶えようと、奮闘するこぶんたち。おやぶんに忠実なこぶん3羽の、無垢な目の輝きがかわいい……。パッピーノ、ピッピーノ、プップの描き分けはされているのですか? 眉毛の離れ具合とか(笑)。
キューライスさん) そこまで考えて描いていないです(笑)。ただプップだけは末っ子キャラの設定で、ちょっとぼんやりしているというか、お兄ちゃんたちががんばっているときに、ワンテンポ遅れていることがありますね。『ドン・ウッサ グッスリだいぼうけん!』でも最後はひとりだけほとんど寝ちゃってますし(笑)。
笑えてキュンとする! キューライスの絵本世界
EHONS) ──シリーズ3冊のどの本でも、健気な3羽のこぶんは一所懸命おやぶんに尽くすのですが、いかにも失敗しそうな作戦ばかりでハラハラドキドキ。『ドン・ウッサ ダイエットだいさくせん!』では、逆にやせ細ったこぶんのために、おやぶんがお粥を作る関係性にほっこりします。笑えてちょっとキュンとして、スッキリするんです!
キューライスさん) 大マジメにバカなことを描いていますよね。自分自身が絵本で描きたいのは、ストーリーそのものより、ストーリーの間のひとコマというか。たとえば2人の登場人物がいて、「じゃあ2人で協力してサンドイッチ作るか」って、サンドイッチ作りの工程そのものがバカバカしく面白かったりとか……。そんな、 説明しがたいユーモラスさを描きたいんです。
EHONS) ──一方でドン・ウッサが空を飛んだり、海や火山、砂漠のピラミッドに入ったりと、壮大な世界観も魅力ですよね。
キューライスさん) リミット(制限)を設けちゃうと面白くないので、「ピラミッドに行きたいな」と思ったら、ちょっと歩いたらピラミッドの中にいるというふうに、無限大の世界を描きたいなと。考えたところにはどこにでも行けるように描いています(笑)。
EHONS) ──舞台設定やキャラクターなど、どうやって考えているのでしょう。頭の中で構想を膨らませてから書き出すのか。それとも、パソコンの前に座って書きながら考えるのですか?
キューライスさん) 両方ですね。今は毎日Twitterにマンガをアップすることを続けているので、なかなかマンガ以外にじっくり時間を使うのが難しいですが、本当は時間さえあれば、絵本のアイディアはいくらでも浮かんできます。
EHONS) ──アイディアや創作の源はどこにあるのでしょうか。子どもの頃から、絵を描いたりおはなしを作ったりするのは好きだったのですか。
キューライスさん) 小学生の頃から絵や工作は好きでしたが、じゃあ実際にマンガを描いたり物語を書いたりしていたかというと、別にしていなかったです。そうですね……何をしていたかというと……。自分の家の壁の中にこびとがいて、そのこびとたちが壁の上層階から下層階までコミュニティを作っていて、さらに土台のブロック塀と土の下には広大なこびとの街がある……というのを、夜、寝る前に布団の中でずっと考えていましたね。
EHONS) ──壁の中のこびと世界をキューライスさんは外からのぞいているのですか。
キューライスさん) 寝るときに、自分の体がちっちゃくなるんですよ。自分の意識がどんどん小さくなって……こびとの部屋に入っていくんです。そうするとこびとたちが「あぁ……いらっしゃった!」と迎えてくれる(笑)。外界から敵が襲ってきたりするんですが、そのときどきの自分の好きなものをこびと世界に入れていくんですね。
当時僕はスターウォーズが好きだったので、Xウィングという飛行機の格納庫を作って、僕が乗り込んで飛ばそうとすると「お待ちください! そのXウィングはまだ調整が!」とこびとが駆け寄ってくるけど「うるさい!」と無理矢理発進させたりとか(笑)。ミニ四駆の中が、乗車して運転できるようになっていて、それを走らせたりとか……。そんなことを想像しながら寝るのが好きでしたね。
EHONS) ──すごいですね。いくらでも物語が作れそう。
キューライスさん) マンガも絵本も、時間さえあればいくらでも描けます。ただ、絵本で僕がやりたいことは、物語とはちょっと違うんですよね。
最近出版したマンガ『すず色のモーニャ』(ほぼ日)は大冒険活劇で、はじめからストーリーを綿密に練り、1本の映画を形にするように頭から順番に描いていきました。
一方、ドンウッサの前に描いた『あばれネコ』(KADOKAWA)なんてただネコが暴れるだけの絵本でしょう。でも絵本ではそういうヘンな愉快さを描きたいなと。
長新太作品のナンセンスさに憧れて
EHONS) ──キューライスさんはマンガ家として活躍され、以前は短編アニメーション作家としていろんな賞を受賞されたり、CMディレクターとしてお仕事をされていた時期もあります。なぜ絵本を描いてみようと思われたのでしょう。もともと絵本作りに興味があったのですか?
キューライスさん) 絵本は、子どものときももちろん見ていましたけど、本当に好きになったのは大学時代です。きっかけは、長新太さんの絵本に出会ったことですね。美大の授業で初めて絵本を制作して以来「長新太さんみたいな絵本が描きたい」とずっと考えています。
EHONS) ──長新太さんのどの作品が好きですか?
キューライスさん) 『キャベツくん』(文研出版)とか『ちへいせんのみえるところ』(ビリケン出版)、『ムニャムニャゆきのバス』(偕成社)とか……長さんの絵本は全部好きです。だって、めちゃくちゃじゃないですか。キャベツくんが歩いていたらブタヤマさんがやってきて「キャベツ、おまえをたべる!」と言い出したり、いきなりトンカツが歩いてきたり。もう「ええーーーっ!!」の連続で、ナンセンスの面白さってこれか!と。
EHONS) ──他には、どんな絵本が好きですか?
キューライスさん) モーリス・センダックも好きだし、工藤ノリコさんの「ノラネコぐんだん」シリーズ(白泉社)も大好きです。「ノラネコぐんだん」は毎回面白くて、新刊が出るたびにすごいなと思います。
絵本作りはまだまだ「挑戦」です
EHONS) ──今後こんな絵本を作りたいというイメージはありますか?
キューライスさん) 「これまでにない絵本を描こう」と思っているけど、「これまでにない絵本」ってほとんどないですよね。絵本になってないキャラクターを探すのが一苦労なくらい、ありとあらゆる動物も幽霊も絵本に登場している。それに「絵本らしさ」みたいなものを守ろうとするマジメな人間でもあるんです、僕は(笑)。だからこそ長新太さんの突き抜け具合に憧れてしまうところはあります。
たとえばマンガ『スキウサギ』(秋田書店)の読者からのお手紙に、子どもの絵が添えられていることがありますが、けっこうブサイクな表情のシーンが多いんですよ。「かわいい顔じゃなくてあのヘンな顔を選ぶんだ」と思うと、興味深いですね。
実は「ドン・ウッサ」も、もっとシュールに描きたいけど、あまりにシュールだと売れないかなと(笑)。あと、長さんの絵本がずーっといまだに好きだからこそ、違うものを描きたいとあがいています。絵本は、まだこれからも僕にとっては「挑戦」ですね。自分が面白いものと、みなさんが面白いと思ってくれるものの接点を探しながら、なるべく楽しんでもらえるものを描きたいです。
EHONS) ──ありがとうございました!